
池田 浩治:東北大学病院臨床研究推進センター
石井 健介:医薬品医療機器総合機構
鈴木 由香:東北大学病院臨床研究推進センター
高田 宗典:東北大学病院臨床試験データセンター
田村 誠:一般社団法人医療システムプランニング
俵木 登美子:一般社団法人くすりの適正使用協議会
方 眞美:医薬品医療機器総合機構
横井 宏佳:福岡山王病院循環器内科
(50音順・敬称略)
平成から令和へと時代も変わり、我が国の医療界にどのような変化が起こるでしょうか。現場の多くの医師が感じているのは、医療機器の償還価格が下がってしまってアジアにおける日本の立ち位置が弱くなってきていることです。このまま放置してしまうとJapan Passingという状況さえも考えられ、新しい有用なデバイスが日本に入ってこないことも起こりえます。したがって、承認体制、適応拡大をどう考えるかはアカデミアと企業活動に跨る喫緊の課題です。有益なデバイスを実際に臨床で使えるようにしていくにはどういったプロセスが必要なのか、また企業、アカデミア、行政はどういうことを考えているのか。そこにReal world data(RWD)をどう絡めていくのかを考えていきたいと思います。
PO法人リアルワールドデータを構築し明日の医療を支援する会
理事長 中村正人
PMS(市販後調査)を再考する
中村:
BMSの時代は医師の裁量が極めて大きく、臨床試験でよい成績が出るにしたがって適応が拡大していきました。言うなれば、臨床試験で有効性を検証していく時代でした。打って変わって、DESの時代はデバイスラグという問題が出てきて承認がすごく遅れてしまいました。当時唯一分からなかったのがステント血栓症の評価で、 PMSはそこから始まっているのですね。このころのPMSは、かろうじて2品目くらいまでは有用性の調査という意味がありましたが、製品が増えるに従い企業もアカデミアも興味を失っていたように感じます。
Zilver PTXは米国よりも日本の承認が先になった稀有なケースです。これは安全性と有効性の両方の検証ができた、PMSの理想的な形でしょう。あくまでも探索的な研究でしたが、リアルワールドでステント内再狭窄例にもZilver PTXがよく効くことが分かりました。また米国が日本のデータで適応拡大したということは画期的で、日本のPMSデータが役に立った数少ない成功例と言えるかもしれません。また最近、パクリタキセルの問題が出てきて、本邦で実施したPMSのデータ活用が検討されています。そこで、もう一度PMSについて考えてみたいと思います。
横井:
私が小倉にいたころのPalmaz-Schatz stentの治験を振り返ってみますと、当時我々は臨床治験終了後に個人輸入で400例ほど使っていて、複雑病変や長い病変、分岐部、CTOなどのOff-Labelな病変に対する再狭窄率を調べました。本当に、小倉記念病院のデータが当時の日本のRWDといっても過言ではなかったと思います。Cypherの時代のRWDとしてはj-Cypherでしょうが、これはアカデミアと企業がタッグを組んだわけではなく、医師主導で複数の病院が参画し行われた前向きレジストリー研究で、企業主導のPMSは別に行われていました。Zilver PTXは企業とアカデミア、 PMDAが事前に打合せをしてPMSを進めていった背景があります。そう考えると、企業もアカデミアも承認側も、共通の市販後のデータベースの構築が求められている時代になってきていると考えることができます。未来を見据えると、PMSとRWDとの重なりを追及していくべきでしょう。
中村:
現状のPMSは適正使用にのっとった調査になっているという側面がありますね。実臨床を知るという観点からはPMSという言葉は変えたほうがいいかもしれません。
池田:
医療経済も問題です。Cypherの時はまだ景気も悪くなくて、保険償還価格も高かったのでいろんなことができました。今やもう見る影もありません。そうなるとPMSの最適化が言われてくるのは自明の理です。それにPMSでは適応を遵守しながらイベントが発生しない症例を潜在的に選びがちなので、出てくるデータはリアルワールドのデータより良いことが多い可能性は否めません。PMSを行う医師側にしても、イベントが起きると報告するだけ手間が増えますから。
鈴木:
企業にとってPMSは「義務だから」というところもあるし、よいデータが出ることが分かっているということはその通りかもしれません。私は長い間審査側に関わってきましたが、PMSは以前とはだいぶん変わってきた印象を持っています。ただ、承認には様々な限定が課せられていることも事実で、適正使用ということを考える必要が出てきます。バランスをどうとっていくかということでしょうね。RWDの活用はそこに一石を投じる可能性を感じます。
中村:
PMSがRWDになるにはオールカマーであることが必要でしょうが、実際にはいくつかの障壁がありますね。高田先生は率直なところどう思われていますか。
高田:
目的なくただ集めただけのデータは新しい知見を何も生み出しません。集めるデータの目的が決まれば、そのデータの質の程度がどの程度で求められるかがおのずと決まると考えています。さらに、そこにフレキシビリティが保たれていないと駄目なのかなと思います。今回のパクリタキセルの解析のように産官学で取り組んで、互いにWin-Winなところを強調していくと、PMSの意味がよりはっきりするのではないでしょうか。
行政の立場から考えるPMSの意義
石井:
行政ももう少しやれたことがあったかもしれません。ただ、日本にはPMSというルールがあってよかったと思うときもあります。たとえば、海外でステント血栓症の増加で注目されていたときに、日本ではCypher PMSやj-Cypher Registryがスタートしていたので冷静にその結果を見ようという感じでした。今回のパクリタキセルにしても、PMSが行なわれていたからこそ、その解析ができるわけです。そういうことを考えていくと、PMSイコールRWDになれば理想と言えます。
PMSは企業独自で行うと負担が大きいので、アカデミアのサポートが必要です。一般的に現場の先生方にとってPMSはあまり興味のないジャンルかもしれませんが、新たに生じる課題の分析など未来のより良い医療のためにと思って一歩踏み込んでいただければと思います。有意義なPMSとは、限られた適応を遵守して適正使用を守って出てきたPMSよりオールカマーのデータ収集です。PMSイコールRWDとなることが患者さんにとっても大きなメリットにつながるのではないでしょうか。
中村:
確かに、PMSはお金がかかる割に、企業にもアカデミアにもメリットがあまり見えていない。有効でなかったPMSが有効になるようにしていかないと。
俵木:
医療機器という特性から考えると、適応範囲はもう少し広く取っても良いように感じます。薬とは違って「道具」ですから、実際にどう使うのかを市販後に検証する部分があるように思えてなりません。RWDはその部分を示すことのできるデータになりうると信じています。今は厚生労働省もリバランスということで早期承認制度、その後の適応拡大を視野に入れていると言っています。どのようにPMSを行うかを考える時に来ているのは間違いないでしょうね。
中村:
保険の観点から、田村先生はどうお考えですか。
田村:
海外にはcoverage with evidence developmentという概念があります。昨年の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料にも「データは明確ではないがcoverageはつけます、そのかわり後でエビデンスを示してください」というものについて紹介がされました。従来は承認範囲で行った結果しかエビデンスとして認めませんでしたが、審査報告書に「ある程度成り立つ仮説」が示されていれば保険側は認めてくれる可能性があり、それを後で証明するのは非常に意義のあることです。
中村:
審査側としての意見も聞きたいですね。
方:
審査側は明らかにリスクベネフィットバランスがとれないというところ以外は、なるべく広く適応をとらせる方向で審査しているつもりです。例えば米国は臨床試験で除外されたものはオフラベルですが、日本では透析患者さんが除外基準に入っていても審査側は適応外使用とは考えていません。審査の方針そのものは変わっていないと私は思いますが、「〇〇に対する有効性と安全性については、十分に確認されていない」と添付文書にあると、適応外扱いにされてしまうかもしれませんね。
中村:
なるほどそうですか。そもそもガイドラインはエビデンスを含めてどんどん変わっていくのに、添付文書はずっと昔のままのものが多いですよね。LMTは今ではクラスⅠなのに、LMTにDES使用可能ということが最近になって書かれていたりします。
方:
本当にそうです。PMSも審査の課題についての確認や、日本のリアルワールドのデータとして本当に必要なのです。ただし、せっかく集めたデータが全然活かされていなければ、それは無駄というものです。昔は、海外のデータはいろいろあるのに日本のデータは全くなくて、あっても単施設のチャンピオンデータばかりでした。今は日本の素晴らしいデータもたくさん出てきていると思うので、それらを次の医療機器開発に役立てられるように何とか活かしていかないといけないと思います。ただ、PMSとして出てくるデータは販売終了のものばかりで、「それを今出してどうする」という話もありますよね。
中村:
私も、とある製品の5年後調査に審査をやっていますが、もう売ってないのです。売ってないのにまだやるのかという。これ、ルールですからね。
鈴木:
Zilver PTXのケースは産官学が協力して医療に役立つデータを出し、論文化されて世界にも認められたという非常によいモデルなので、今後こういったことができるように考えなければいけませんね。審査の中でも産官学が興味を持てるような目的をPMSに与えるというのが一番重要なのだと思います。
どうやってPMSを行っていくのか
池田:
基本的にPMSで病院に入るお金は安いですよね。それでは現場のモチベーションに依存しているだけなので、長くは続けられないでしょう。それに加えて、国の政策として働き方改革が推進されていて、病院の経営側からしても仕事量を減らすよう誘導せざるを得ない。根本的な構造を変えないと、PMSを行うのはどんどん難しくなっていく一方です。
横井:
お金の話に目を背けていてはどうにもなりませんね。医療機器もどんどん償還価格が下がって、企業の経済的な負担は大きくなる一方です。でもPMSには費用が掛かります。その費用を誰が払うのか。まわりまわって、結局は税金ですよ。そういう観点も必要ではないでしょうか。企業は新製品に対して高い値段が欲しいのに、どんどん適応を絞っていかないと保険償還されないという状況になっています。そうなると結局、欲しいデバイスが現場では使えないという悪循環に陥るわけですね。負のスパイラルですよ。
中村:
確かに厚労省に申請に行くと、適応を絞るほど通りやすいので、ついこちら側も彼らの意に沿った回答をしがちということもありますよね。でもそうなってしまうと保険で縛られてしまう。この構造を変えていくことこそが急務なのかもしれません。
新しい承認プロセスが始まる
中村:
医療経済の問題を無視しては何も語れないのが現実ですが、企業にとっても我々アカデミアにとっても適応拡大や施設基準の拡大が必須になってきて、承認前後のリバランスという話題が出てきます。それらを踏まえて、田村先生から、承認プロセスが来年以降少し変わるというお話をいただきたいと思います。
田村:
2019年12月18日に中医協が行われて、そこで2020年4月の保険医療材料制度の骨子案が決定されました。注目したいのは、「チャレンジ申請」、「機能区分の合理化」、「費用対効果評価」、「市場拡大再算定」の4項目です。
チャレンジ申請とは、現状では、企業がC1やC2を出した場合に再挑戦できる制度です。それが来年4月からは、とりあえずB1やB2で保険収載し、後でデータを集めて加算を狙いに行くことができます。また、今回の改定でデータ収集の進捗状況についての定期的な報告が必要になりました。さらに、正当な理由があればチャレンジ申請の権利を放棄することもできるということが明記されました。また保険収載時の評価を下回る結果が得られた場合は評価の見直しもありうるということです。もともと類似機能区分があって、それよりも下げられるということはそうそうないでしょうが、明確ではありません。C2チャレンジとは、技術料は学会からの医療技術評価提案はできても企業からはできませんが、今後できる可能性が出てきます。また、チャレンジ申請で注目しているのは、診療の効率化に寄与できることを示すということです。例えば、検査回数の低下等、治験で証明したと言っていることにRWDが組み込まれれば効率化の実態が明らかにできて、それによって加算が取れる可能性があるのではないかということです。
中村:
なるほど。
田村:
次に、2016年から頻繁になされるようになった「機能区分の合理化」にはRWDが大きく関係すると考えられます。「費用対効果評価」は2019年の4月から本格導入をしていますが、これは最初に保険収載をしておいて、それから18ヵ月以内くらいに企業と厚労省とで議論して結果を出す仕組みです。既収載品が評価対象になる可能性もあります。また、比較対象製品の有効性を示す必要があるのでRWDが重要になる可能性が高いです。ちなみに、3~4年前から費用対効果評価の試行というものがなされていました。その試行でも、企業側の主張がRWDで確認できたことで、引き下げが避けられた事例があると聞いています。
「機能区分の合理化」とは技術の陳腐化等の理由で区分の統合が行われることです。価格が高いものと低いものを統合して一つの価格にするので「財政中立」ということですが、診療報酬を簡素化したいというのが根底にあります。ジェネリック医薬品で問題になっているように、値段の高いものと低いものを統合すれば低いものは上がるわけですよね。それはいいのかということです。ただし、販売実績が乏しい区分の合理化についてはある程度納得できます。また、償還価格に差がなくなってきた場合も考えなくてはなりません。
横井:
なんだか、よい面と悪い面が混在しているように聞こえてきました。
田村:
区分を合理化するときは有用性に差がなく対象も同じというのが厚生労働省の説明なので、RWDにより、有用性や適用対象の差を明確にしておくことが必要です。
中村:
そして最後があれですね。
田村:
そうです。4月から「市場拡大再算定」という制度がいよいよ医療機器にも入ってきます。薬における算定ルールを医療機器にも当てはめるかという議論が中医協でありました。結果として、医療機器の場合は機能区分全体で150億円を超えるという整理になり、機能区分全体が当初の予想額から2倍以上あるいは年間販売額が150億円以上であれば、市場拡大再算定を受けるということになりました。特例再算定については、10倍以上の場合は年間販売額が100億円でも適用されるということになります。区分全体の予想は推定適用患者数をもとに、これが機能区分全体の金額だと予想されるということです。
薬では個々の銘柄で判定しますが、医療機器の場合は機能区分単位です。加えて医療機器の場合は機能区分の合理化が行われる可能性があるので、現段階での市場規模が80億円だと思っていても、合理化で突然150億円以上とされてしまう可能性も無きにしも非ずです。チャレンジ申請はともかく、区分の合理化や市場拡大再算定に対しては、RWDできちんと準備をしておかないと痛い目に遭うかもしれません。
中村:
最新の情報をありがとうございました。みんながデータを持っていないと失うものばかりになってしまうというのは恐ろしい。
素朴な疑問の数々
横井:
治験のときには有効性が示されなかった病変で、市販後に有効性と安全性が確立した場合はどうなるのでしょう。
田村:
適応の横の広がりは、現制度で言うとB3申請かC2申請のいずれかだと思います。最初に適応を絞って承認を取っておいて適応拡大ができても、それがもともとの予想額の2倍あるいは150億円を超えると、価格切り下げという可能性が出てきてしまいます。
横井:
われわれ医師の技術料はどうなりますか。デバイスは使い方にも変化があるし、より上手に使っていくことができるようになっていくわけですが、技術料は90年代初めと全く変わっていないのです。チャレンジ申請は僕も起こしたいぐらいです(笑)。
中村:
技術料は外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の管轄ですものね。外保連試案は症例数が多いものは技術料が下がるというのがベースの考え方です。例えばPCIみたいに症例数の多いものはこなれた医療で高度医療ではないということになるので、技術料は下がりますよ。
田村:
医療技術評価提案で技術料を上げてほしいという要望は出せると思いますが、診療のコストが上がったから、技術料を上げてくれと言うしかありません。治療のアウトカムベースで技術料を上げてくれという枠組みはないと思います。特定保険医療材料では、コストが採算割れといことで償還価格の引き上げの要望を出せることはできると思います。ただ、いかんせんコストベースなので、それでよいかどうかというのはなんとも言えません。
中村:
しかし機能区分の合理化や市場拡大再算定は、企業にとってのかなりのダメージになりますね。それは厚労省に交渉に行くときにこちらも相当注意すべきところでしょう。
石井:
チャレンジ申請権を得て、そのときに追加で出されるデータは何でもよいのでしょうか。
田村:
今のところ何の縛りもないです。一般的にC1、C2だとレビュード・ジャーナルにパブリッシュされているということですが、国内でも海外でも大丈夫だと思います。現時点では、申請時にどれだけのNでどういうデータを出すということに対する事前の報告も義務はありません。次回改定からはきちんと計画を出してくださいということになっています。
中村:
やってみたらよい結果が出たので申請しようというのはだめということですか。
田村:
チャレンジ権を得ることが先決です。
横井:
例えば足の領域でのスコアリングバルーンには高い値段がついています。でも、日本で使えるそれは4cm未満のものなのですね。海外では長いスコアリングバルーンもあるのに日本では使えない。そこで、まずはバルーンの値段で承認を取って、市販後データが出たらチャレンジ申請でスコアリングバルーンの価格がつくというケースはあり得ますか。
田村:
データを蓄積して有効性が出たときに、何か類似機能区分を決めないといけないと思います。後は何に対して加算を取るかですね。
中村:
類似区分ですか。なんだかチャレンジ申請みたいなものもありますよと言いつつ、機能区分をひとまとめにして医療費を下げたいという国の考えが透けて見えるような。
池田:
スリッピングバルーンの適応は、そもそも短い病変のスリップ防止から始まっています。しかし現在はlesion preparationと目的が変わってきています。Lesion preparationの有用性は示しにくい。物はよく似ているけれども使い方がこの10年の間にだいぶ変わって、それを新規申請すると有用性が言えない。でも、使用意図が違うわけですから。背景が時間とともにねじれていますよね。
田村:
有用性加算には3つ条件があって、その中に「治療法の改善があります。しかし、何をベースにして主張するかが難しいですね。
俵木:
抗菌薬塗布したデバイスで感染症の発症率が低下したみたいなことがチャレンジ申請で認められたとすると、薬事がどうなるかということですが、現実にどうなると思いますか。
石井:
基本的にこのような使用目的の変更というと、かなりのエビデンスあるいはGCP準拠の治験、RCTという話になります。チャレンジ申請で中医協がわずか1報の結果で価格の加算を認め、一方でPMDAはその程度では一変申請を認めないとなると、「なんだそれは」となる可能性もありますね。今すぐに答えは出せませんが、気にかけておく必要があると思います。
俵木:
保険で評価しての加算はよいことですから、薬事の適応と範囲の考え方を整理しておく必要があるとは思います。医療機器のRCTは経済的な観点からも実現しないでしょうし、RWDを上手く育てて、そういうものの評価に寄与するものにしていかないといけないのではないでしょうか。
鈴木:
私は、まずはPMDAとの連携を強固にすべきと思います。最初からしっかりしたデータを出しておけば高い値段がつきますから。しかし、PMDA単独では難しいと思えることが多いため、広く産官学で議論して整理していく作業が求められます。
方:
仮説検証に成功した臨床試験成績が何本も出てみんなが認めれば変わっていくのでしょうが、そのような臨床試験成績が1本程度でチャレンジしてもいいのかというのは素朴な疑問です。ですが、GCPに準拠した臨床試験は費用面で本当に大変です。経済的なインセンティブはあったほうがいいのかなと思いますが、それすらどうすればよいのかが分かりません。
池田:
確かにそうですね。日本でエビデンスを作ると高くつくという話をよく聞きます。市販後に国内でデータを集める場合でも特定臨床研究となる可能性が高いので莫大な費用が発生します。外資系は海外データなどの利用も検討できる分だけ有利だけれども、日本企業には苦しいという気もしますので、国内企業にもうまく使えるようなかたちをこれから考えていく必要があります。
中村:
後でチャレンジ申請によって価格を上げる、これもリバランスという方法の一つかもしれません。国内メーカーもRCTの精度を求めると難しいけれども、市販後調査のAll-comers patientsのリバランスでチャレンジ申請できるなど、日本の現場に合ったやり方をつくったほうがいいでしょう。
横井:
問題を解決するためには、市販後に安価に正確な信頼性の高いデータをどう集めるか、その仕組みを作っていくことを考えないといけません。その環境を産官学で話し合って構築していくことがなによりも必要なことと感じます。
中村:
チャレンジ申請で実際に償還価格が上がった品目があるという事実はとても重要ですね。それが毎年増えていくという話になれば、企業にとっても新しい風が吹きそうです。
後編に続く