PCIを受ける患者が高出血リスク(HBR:High bleeding risk)かどうかを判断するための国際的な評価基準が、学術研究コンソーシアム(ARC:Academic Research Consortium)によって定義された。ARCは、専門家(医師・研究者)、政府機関(行政)、企業の3社によって構成されている。ARCによって既に定義が定められている実例として、「ARCステント血栓症の定義」や「BARC出血基準(Bleeding Academic Research Consortium)」などがある。過去には、ステント血栓症や出血の判定において、個々の試験や登録研究で微妙に基準が異なるために、研究どうしを直接に比較することが困難であった。物事を解析していくには定義を明確にすることが重要であるという、欧米人的な科学的思考様式がARCのコンセプトの背景にある。薬物溶出性ステントが登場した後に大問題となった遅発性ステント血栓症が現在は激減している経緯にも、ARCの定義を用いることが貢献していた。
PCI施行患者におけるARCの高出血リスク(ARC-HBR)を策定するための委員には、アカデミアとして欧米からだけでなく、日本と韓国の医師・研究者もメンバーに加わっていることは知っておいてほしい。ARC-HBR の定義は、2019年5月にフランス・パリで開催された、EuroPCR 2019において、Philip M. Urban医師が発表し、European Heart Journal誌(Eur Heart J. 2019;40:2632-2653)とCirculation誌(Circulation. 2019;140:240-261)に詳細が掲載された。欧州と米国を代表する循環器領域の最高権威の医学雑誌にまったく同じ内容の論文が同日に掲載されたことは、大きなインパクトをもっている。「高出血リスク:HBR」という問題の重要性と、その解決に懸けるエネルギーの大きさを示唆するに十分である。
ARC-HBR では、PCI後1年以内にBARC出血基準 3または5の出血リスクが4%以上、または頭蓋内出血リスクが1%以上有する場合をHBRとすることをコンセンサスとして、14項目の大基準(major)と6項目の小基準(minor)を示している。欧米では、PCI施行患者の約20%がHBRとされるという。今後は、このARC-HBRの基準を用いることにより、HBR患者を対象にした臨床試験の立案やデータ解釈に役立つものと期待される。