Structure Heart Disease(SHD)に対するカテーテルインターベンションは近年、新規デバイスの承認に先立ち広がりを見せてきており、冠動脈インターベンション;PCIならびに全身血管インターベンション(EVT)とともにSHDはカテーテルインターベンションの中の一角を担っていることは疑いの余地もないと思います。
しかしSHDという言葉はいつから市民権を得たのでしょうか?しかもPCIやEVTなどは日本語に訳してもどんな治療を行なっているか一目瞭然であることに対してSHDは「構造的心疾患」という訳であり説明も難しいですよね。
以前、学会ではSHDなどというジャンルではなく「Non Coronary Cardiac Intervention」というセッションで演題が募集されていました。訳せば「冠動脈以外の心臓インターベンション」であり、治療内容も一目瞭然なのですが、言葉としてNonって最初から否定の文字が入っているのは海外の方からは受けが良くなかったのでしょうか?
SHDという言葉を提唱したのはあの有名なMartin Leon先生1)ということは(一種の「トリビア」ともいうべきなのでしょうが)皆様ご存知でしたか?1999年のTCTに将来伸びる可能性のある分野、ということで取り上げて、Structure Heart Diseaseと命名したようです。先見の明なのでしょうね。
SHDと一言で言っても多岐に渡ります。TAVIやMitraClipをはじめとする弁膜疾患、ASDやPDAといった先天性心疾患、さらにWatchmanをはじめとする左心耳閉鎖術、また、肥大型心筋症に対するPTSMAなど。海外では心室中隔欠損の閉鎖や弁周囲逆流(Paravalvular leakage; PVL)の閉鎖、心室瘤に対する治療も広く行われています。
SHDの治療の最大のメリットは根治術を目的とする外科手術と比べて圧倒的な低侵襲でしょう。根治術になり得るだけでなく、症状緩和、さらに手術までのbridgeという選択をすることも可能です。一方で「心構造を変える治療」であるがゆえに予期せぬ合併症では外科手術の介入がなければ「確実に死に直結するとてつもなく大きな合併症」を引き起こす可能性を秘めています。
とはいうものの、TAVIの分野では短期的な成績では低リスク患者さんの治療成績は外科手術に勝るというデータが出されました。個人的には高リスクの患者さんで良好な成績であったTAVIが低リスクの臨床試験で勝たずとも負けることはないと思っていました。ただ、長期予後はどうなのでしょうか?こちらは時期が来たらその成績は明らかになるのでしょう。さらにこのカテーテル治療が第一選択となりうるためには「長期予後」を見据えた治療を見据えた術中、術後、慢性期の治療を行なう必要があると思います。
とはいえ、あくまで個人的な意見ですが、これからのハートチームのディスカッションは患者さんの人生100年というspanを見据えてTAVIとSAVRどっちがどう優れているかではなくどちらも優れていて、どちらも構造的な劣化を生じうるという前提でどの順番でどう組み合わせて治療をしていくのか、ということが行われるようになってくると思います。その流れは10年、いや5年後にはある程度わかるかもしれません。その頃にはどんな状況になっているのでしょうかね。1999年のMartin Leon先生みたいには先を読むことはできないですね。凡人の私には・・・・。
1)European Heart Journal Supplements (2010) 12 (Supplement E), E2–E9