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NPO特別座談会 平成から令和へ時代は変わったか あすなろ会の議論を踏まえて 後編(RWDの運用・活用編)

2020.07.27
座長 中村 正人:東邦大学医療センター大橋病院循環器内科
   池田 浩治:東北大学病院臨床研究推進センター
   石井 健介:医薬品医療機器総合機構
   鈴木 由香:東北大学病院臨床研究推進センター
   高田 宗典:東北大学病院臨床試験データセンター
   田村 誠:一般社団法人医療システムプランニング
   俵木 登美子:一般社団法人くすりの適正使用協議会
   方 眞美:医薬品医療機器総合機構
   横井 宏佳:福岡山王病院循環器内科
   (50音順・敬称略)

平成から令和へと時代も変わり、我が国の医療界にどのような変化が起こるでしょうか。現場の多くの医師が感じているのは、医療機器の償還価格が下がってしまってアジアにおける日本の立ち位置が弱くなってきていることです。このまま放置してしまうとJapan Passingという状況さえも考えられ、新しい有用なデバイスが日本に入ってこないことも起こりえます。したがって、承認体制、適応拡大をどう考えるかはアカデミアと企業活動に跨る喫緊の課題です。有益なデバイスを実際に臨床で使えるようにしていくにはどういったプロセスが必要なのか、また企業、アカデミア、行政はどういうことを考えているのか。そこにReal world data(RWD)をどう絡めていくのかを考えていきたいと思います。

NPO法人リアルワールドデータを構築し明日の医療を支援する会
理事長 中村正人

RWDをどう運用していくか

中村:

日本では適正な医療費の再配分において、リアルワールドデータ(RWD)の費用対効果が問われています。米国ではどのような状況なのでしょうか。

高田:

米国では、CTSA(Clinical and Translational Science Awards)がデータの相互利用を焦点として、FAIR Data Princpleに則った指標について、2018年から19年にかけてCommon InformaticsMetricとして発表しています。医療機関との契約、施設の立場を考えると、日米のデータの集め方は少し違うようです。米国は企業とアカデミアの人材交流が非常に盛んなので、企業とアカデミアは連携しやすい状態なのでしょう。

パクリタキセル問題のデータカタログをまとめていて気が付きましたが、治験とPMSでも、企業によって治験で集めている症例報告書のフォームが異なります。これでは見られるものが変わってきたりもします。米国の取り組みやデータシェアリングなど、参考できるところが多いかもしれません。

中村:

RWDはHBDの会議でも話題に上るのでしょうか。

鈴木:

FDAはRWDの活用指針も出してきていますね。日本もできるだけ海外と歩調を合わせて同じような取り組みをやっていますが、実例はこれからです。机上で議論していてもなかなか進まないので、By Doingでやっていくことが重要ではないでしょうか。

高田:

FDAはRWDを用いた評価の方法論のガイダンスも発表していて、その中で医療機器開発におけるRWDの使用も推奨するとされています。データの質の定義や臨床的意義についても議論が始まっていて、日本では誰が旗振り役になるのかが焦点になりますね。

横井:

Zilver PTXはRWDの活用がISRやlong lesionの適応拡大につながって、FDAも実例として公表しています。IN.PACT DCBは、ISRの適応拡大はアメリカの血管外科学会(SVS)がVQIレジストリを持っていて、FDAはそのデータで適応拡大したと公表しています。ところが日本では、VQIはPMDAの信頼性保証部がだめだと言っているからRWDとして認められない。RWDの信頼保証はどこまでのものが必要なのかはっきりしないと、われわれも企業も何をどうしていいかわかりません。

石井:

米国では企業主導ではなく、アカデミア主導で集めたレジストリデータを企業が購入するなどして、それを申請等に利用します。一方、日本はデータの信頼性調査があって、「説明責任があるのは企業側だから、説明できないなら利活用はできない。」というスタンスをこれまで取ってきました。
そうはいっても、RWDを利用した承認審査や市販後調査の代替という時代に来ていますし、PMDAも研究支援・推進部が中心となって、レジストリデータ活用に関するガイダンスを作成しはじめているところです。それは2本立てになっていて、1つはレジストリデータの信頼性の保証の考え方、もう1つは承認審査への利活用に際しての基本的な考え方というものです。これらのガイダンスは令和2年度中に公表できるように現在作業を進めていますので、今しばらくお待ちいただきたいと思います。

横井:

PMDAの信頼性保証部がこのレジストリだったら信頼できるというクオリティのレベルを決めてしまえば、おそらくPCIもEVTも質の高いRWDが取れる。そうすると、日本企業でもRWDを使ってチャレンジ申請ができることになりますね。

石井:

レジストリを利活用する土壌を築くために今年の4月から新たに相談業務を設置しました。1つはアカデミア向けの相談枠であるレジストリ活用相談です。今後企業の方々が薬事活用することを見据えて、いまのうちにレジストリの質の担保のために相談したいというのに使える相談枠です。現状レジストリを行うに当たってのレジストリの組織体制や手順書などの資料を事前に提出いただいて、それに対してアドバイスをします。

もう1つはレジストリ信頼性相談です。薬事活用に向け企業の方々を中心に、もちろんアカデミアの方々とセットが望ましいのですが、レジストリでデータを収集することの事前了解、データの信頼性や充足性はどうかなどを確認するような相談枠です。

どちらも有料ですが、その前に無料の全般相談で十分議論しながら、対面助言を行います。PMDAも少しずつ世の中の変化に対応してきている現状です。

横井:

そういうものが構築されるとPMSの代替として活用できる可能性も十分にあるということですね。

石井:

そうです。今後は企業だけのPMSではなく、アカデミアによるコントロールも合わせたPMSを行うことが重要になるのではないかと思います。

データ収集のためのプラットフォーム構築がカギとなる

中村:

分母が多いデータはクオリティコントロールが難しいというのが現実で、一生懸命やった施設のデータが本当にRWDとは言い切れないこともありますよね。やはり、データの収集に関するプラットフォームをつくることが大事かなと思います。方先生はどうお考えですか。

方:

いざ自分が信頼性保証課と一緒に働くと、そこには実務的な課題がたくさんあることに気が付きます。アカデミアはバイアスはそれほどないと思っていても、手順が守られていたかなどを、後から客観的に確認できるようにしておかないと、バイアスが入っていたかどうかもわからないのです。

実務はすごく大変です。現状では誰がどう手順書を書くか、分母が増えれば手順書通りにいかないかもしれないけれどもそういったときにはどうするか。誰がチェックするのか。RWDの活用自体は大賛成ですが、全部RWDで補完するのは無理があるとも感じます。産官学でデータを集める目的をはっきり定めていかないと難しいかもしれません。

横井:

VQIやCVITのレジストリはRWDだから少々のばらつきはあると思います。どこまでばらつきが許容されるのかはけっこう大事なことではないでしょうか。

方:

オーファンでデータがない中で認可というなら、20例のクオリティの高いデータが必要だと思います。一方、血管内治療のように大きなマーケットであれば、多少のばらつきはあっても数で信頼性が担保されるというように、いろいろなパターンがあるでしょう。

コストに関して言うなら、米国のレジストリは、病院が必要なデータに対して喜んでお金を払っていると聞いていますやはりボランタリー精神だけでは先々きつくなるでしょう。

中村:

その通りですね。医者のボランタリー精神でやっているという現実では質が下がることはあるでしょうし、システムをつくらないとRWDは永遠に一人歩きしてしまうのではないかなと思います。

横井:

ACCはNCDRというデータベースを持っていて、レジストリデータをうまくまとめて活用しているようです。その財源は企業からではなく病院からです。全米の名だたる病院はそのデータが欲しいからお金を投資しているそうです。病院が知りたいのは自分の病院の医者の質で、これはとても重要な指標なのでデータを学会から買い取っているわけですね。よりよい医療のためには、お金を投資してもらえるような仕掛けをつくっていくことが必要ということでしょうか。

中村:

支払いだけでなく、場合によっては担当の医者もクビになってしまいます。たとえばとある血管外科医がバイパス手術ばかりでEVTを全くやらないとすると、在院日数が長いという理由でその医者はクビです。病院としては、そのデータが自分の病院と医者の評価にも使えるから、そのデータがものすごく欲しい。でも、日本もそうなってくると世知辛くなる(笑)

ただやはりコスト感覚は必要です。例えばAMEDもJ-PCIを1年やりましたが、お金が切れた途端にレジストリが切れてしまう。こういったレジストリが日本中に何万とあるのが現実です。

高田:

立ち上げの部分に公的資金を入れて、そこから企業が使えるデータを提供し続けることで企業のスポンサーを得るというほうが、事業として継続性があると思えます。ICH-E6のRenovationの話とかE8のModernizationなどを下支えにしながらのシステム構築がスムーズなのかもしれませんね。

PMDAにおいては、レジストリ活用相談の中に、医療機器のワーキンググループも入っていると伺いましたが、ICHの動きと連動して動いているということはあるのでしょうか。

石井:

現時点ではICH-E6の改訂に向けて検討中と聞いております。

高田:

それで質の議論が膨らめばいい方向に行くでしょうね。

横井:

診療報酬の変更も一案ではないですか。たとえばPCIの教育認定施設をCVITで決めていますが、こういうデータをきちんと打ち込むことができる施設は、手技料、保険点数を上げてもらう。でも、これは自分の首を絞めることになるのかな(笑)

池田:

この話は特定機能病院の話と似ていますよね。特定機能病院は医療技術の開発をしなければならない施設として定められているので、少しだけ診療報酬上の優遇があります。しかし臨床研究中核病院は医療法で定義こそあるものの優遇はゼロです。それなのに資格要件は非常に厳しく、データマネジャーの要件など全て決められています。雇用するだけでも億単位なのにインカムはないので、助成される整備費だけでは全然足りないのが実情です。基本は持ち出し、赤字です。

そこで我々は、何か価値を見いだして企業からお金を出してもらえるようにしています。例えばレジストリや治験をやって、治験データを申請に使う場合に対価を企業に対して求めるようにしました。最初は企業さんからは難色を示されましたが、我々の価値を示して納得してもらいました。

何をするにもコストの話は避けて通れないので、そこに真摯に目を向けて議論が進んでいけばと思います。

医療政策の今後:(新)臨床研究法

中村:

適応拡大に使えることになっている(新)臨床研究法ですが、これが非常にハードルが高いわけです。今CASTLEという、all-comers trialで薄いステント厚いステントで比較するというスタディをしていますが、やっと1,000例を超えるというところです。

施設を増やすたびに、厚労省への申請のやり直しや、毎日のように山のような書類に判子をつく。実務がとても大変です。気が付いてみたら申請してから開始まで1年以上かかってしまって、皆興味も薄れてくる。これでは医師主導臨床研究は減っていくばかりです。

日本の臨床研究はクオリティが高いのに、ジャパンパッシングで日本のデータがどんどん消滅していくのではないでしょうか。データが必要なのにデータをつくる場が失われているのはいかがなものかと考えてしまいますね。

池田:

本当に、とにかく事務仕事が膨大・煩雑で、こんなに目を通す必要があるかと思うぐらい大変な状況です。中村先生のお言葉通り、臨床研究を推進するはずなのに、そうではない法律になっていると皆言っていますね。

今、厚労省では5年の見直しの準備に入っているので、彼らも情報を集めているそうです。運用の改善なのか通知を出すのか分かりませんが、現況、特定臨床研究はどこまでやるのか、本当にリスクの小さいものまで全部やらなければいけないのか。少なからず混乱があるようです。

日本臨床試験学会では鈴木先生を中心に医療機器について問題点を整理して厚労省に出す予定で準備しているので、鈴木先生のところにぜひ意見をいただければと思います。

高田:

(新)臨床研究法は手続き法として始まってしまったところが問題かと考えます。臨床研究中核拠点の先生方に話を伺うと、少しずつ仕組みに慣れてきて、一度減った新規臨床研究の申請が増えつつある施設もあるようです。そういった中で、この法案自体が、E6やE8の動きと独立して、将来的にダブルスタンダードみたいなかたちになってしまってはいけないですよね。審査側はどういう折り合いをつけていくのでしょうか。

鈴木:

日本の場合は手続き論というか、書類作業が多くなってしまい煩雑になっています。日本臨床試験学会でもCRB(認定臨床研究審査委員会)に医療機器についてのアンケートを取ると、書類仕事が煩雑で忙殺されているという意見が出てきます。今後RWDエビデンス、臨床研究のクオリティが上がって申請にも使えるということになったら、日本でも治験と臨床研究を分ける必要がなくなるかもしれません。治験と臨床研究を分けていない海外とほぼ同様になると思いますし、いいところに着地してくれるといいですね。

石井:

特定臨床研究を薬事申請に使える可能性は当然あると思います。特定臨床研究は基本的にはGCP準拠でやってもらうことになっていますので、前向きに考えようとしています。

一方で、なぜ治験でやらないのか、どこに違いがあるのかと思うときもあります。治験と特定臨床研究の間には少し違いがあると思いますが、特定臨床研究でしかできないという事情もあると思うので、個別に判断しながら取り組みたいと思っています。

池田:

市販前のもので特定臨床研究をやる場合、良いか悪いか別にして正直なところすべて治験でやったほうが慣れている分だけ楽です。後々承認にも使える利点もあります。

石井:

確かに治験のほうがきちんとしているし、メリットもある。ですから、なぜ特定臨床研究を選ぶのか我々もよくわからないところがあります。特定臨床研究ができる可能性があるのは適応の追加などでしょうか。

中村:

費用にしても審査のたびに発生するので膨大です。何かしら変更すると全部厚労省に届けないといけなくて、そうすると審査会議となって人件費が発生する、そんな名目で請求が来ます。施設をちょっと増やすだけでも変更ですからね。

池田:

施設の審査委員会は有料なのですよ。

鈴木:

その前の書類づくり、申請書もきっちりしないといけないですし。

中村:

書類づくりも外注しているから、説明してもらわないとよくわからないような書類が毎週のように送られてきますし。

横井:

試験のプロセス管理はどうなのですか。

高田:

品質管理の目標をどの程度にするかで決まります。

中村:

加えて、何か違反があった場合は個人が罰せられるというのが医者の間に蔓延しているのもどうかと思います。

横井:

あえてメリットを探すなら、やらなくてもいい研究を選別できるところでしょうか。とはいえ、手続きとしてこのままでは絶対にだめですよね。

鈴木:

手続きについての要望を出していますので、次の改正で軽くなっていくのではないでしょうか。

中村:

厚労省も、こんなに大変だと言われると想定していなかったみたいですよ。たとえば中央で審査にかける文章と厚労省のホームページに載せる文章が一字一句同じでなければいけない。違っていると再審査になってしまう。

鈴木:

条件付き承認がないから、文言が違ったというだけでも再審査になる。どんどん1か月ずつ遅れていくという。

中村:

愚痴を言ってもしょうがないですが、本当に不条理な話です。

鈴木:

特に医療機器の場合は臨床研究法のもとでの実施に慣れておらず、これまでより手続きが面倒という理由で、プロトコルを変えて観察研究に持っていってしまうことも問題ですね。臨床研究法から外して観察研究になってしまうと、医学的なエビデンスとしては弱くなってしまいます。いかに臨床研究を避けて観察研究に持っていくかというプロトコルになってしまってはいけないです。

中村:

日本から発信しようと頑張っているのに、それを抑制している法律になってしまっているところはぜひ改正してほしいと思います。

雑感と総括

中村:

時代を反映し、PMSの役割は変化しているのは皆さんの意見が一致していました。RWDを構築できるシステムをつくる必要があるというところも意見の一致を見ました。RWDが従来のPMSを活用する手段となるように検討していかなければいけません。そして運用のところに手を付けていきたいと考えます。来年度はプラットフォームの構築について皆で検討していきたいと思います。

横井:

これからのRWDは産官学がWin-Winで活用できるデータベースであるべきです。アカデミアとしては医者だけでなく、企業も行政も患者さんにも使っていただける仕組みについて、皆で知恵を絞っていきたいですね。

中村:

米国流をまねしても日本でうまくいくわけではないし、日本版をつくらなければいけないと思います。複数の会社が一緒になってやることも必要でしょう。これは簡単なようで難しいでしょうが、そんなことは言っていられない時代になってきたということでしょう。

田村先生の「いいこともあるけれども、後ろに悪いことが控えている」という話は私にとってはかなりショッキングで、厚労省の考えていることが見えてきたなという感じがします(笑)

横井:

しかし医療機器の償還価格の下げ幅はとんでもないですね。このままいくと改定ごとに下がっていって、いずれ業界がみんな死んでしまいますよ。どうしたらいいですかね。

田村:

中医協では医薬品の状況をみてからとなっていますが、医療材料も毎年改定になったらどうするのかと、業界は憂慮しています。特定保険医療材料で点数がどんどん下がるのであれば、包括化、包括評価みたいなことも考えないとやっていけない。

技術料も含めていろいろな選択肢を考えないといけないのではないかと思います。

中村:

予防線というわけではないですが、データを蓄積して自分たちを守るデータをつくっておくことが重要になると思います。でも現状、それがつくりにくくなっているというのは、きわめて問題です。

来年は1年間を振り返り、「去年、こんな話をしていたね。大きく変わったね」と言えるようにしたいものですね。

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