ISCHEMIA試験はまだ論文化されていないため得られる情報は2019年AHAで発表されたスライドの内容に限定されている。それでも様々な切り口から議論が行われているが、今回は血行再建の適応といった観点から述べてみたい。ISCHEMIA試験は中等度以上の虚血が診断された症例に限定した臨床試験で、虚血の有無を十分に検証することなく実施されたCOURAGE試験の疑問を解決する重要な試験である。これは虚血の改善は予後を改善するという基本的な概念に挑戦した臨床試験ともいえる。本試験の方法、結果を要約すると下記の如くである。
中等度以上の虚血を有し解剖学的に血行再建の適応があると診断された5179例が2群に割り付けられた(血行再建が施行された症例の74%がPCI、残りの26%がCABG)。主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症による入院、心不全および心肺停止からの蘇生の複合エンドポイントであり、累積発症率は2年の時点でクロスし4年での差異は2.2%であった(血行再建の方が良好であったが、統計学的な差はない)。副次エンドポイントである非致死的心筋梗塞も同様に2年でクロスし4年時に統計学的な差はなかった。しかし、自然発症の心筋梗塞は有意に血行再建群で良好であった(p<0.01)。症状とQOLに関するサブ解析では血行再建群の方が有意に改善度は高く、症状が高度であった症例ほど改善は大きかった。 血行再建の目的は症状改善と予後改善にあるが、症状を有する症例に対する血行再建の有効性が本試験でも示された。ガイドラインやAUCの概念に合致する。問題は、生命予後に対する効果が明らかではなかった点の解釈にある。 基本的な概念は、10%以上の虚血は血行再建によって生命予後が改善するというものであるが、結果は異なりその理由がいくつか想定される。
- 血行再建群の20%は血行再建が未施行(2/3は冠動脈造影で有意な狭窄がなかった、残りは高度の病変であるが血行再建に不適であった)であり、薬物療法群は23%がクロスオーバーで血行再建が実施された。このことがITTによる解析で両群の差異を小さくした。
- 虚血以外の年齢、脂質、腎機能、喫煙、心不全などの要因、さらには結果としての動脈硬化の進行のスピードの方が生命予後においてはより重要な規定因子となる。
- 周術期の成績が悪かったため総合的に血行再建の有意性が示せなかった。
- 観察期間が短すぎた。KMカーブは徐々に差が開いてきているため、さらに長期の観察が必要である。
以上4点で①の理由はCOURAGE試験でも認められたことであるが、血行再建と薬物治療を比較する臨床試験の限界である。②は最も有力な考え方である。血行再建による自然発症心筋梗塞発症リスク低下は示されたものの、その他のイベントと虚血との直接的な関連性は希薄となったことが推測される。薬物療法の進歩によって生命予後は主として動脈硬化の進行で規定されるようになった。であれば、OMTを実施する両群での成績に大きな差はなくて当然である。実際、STICH試験のサブ解析でもCABGによる血行再建の効果と虚血の有無においてinteractionは認められていない。虚血診断の意義、イベントと虚血の関連性が再度問われることになるであろう。③と④は表裏の関係にある。初期の成績が良ければより早期に有意差を生じたであろうし、2年時にキャッチアップであったため4年の観察期間は短すぎたのであろう。いずれにしても薬物療法の進歩がこのような結果をもたらしたと考えるのが合理的である。この一連の成績はCOURAGE試験、BARI2d試験、近年のORBITA試験と一貫性のある結果といえる。従って、基本的にPCIの適応を大きく変えるものではないが、無症候の症例に対する適応はより慎重、厳格に考えることになるであろう。High risk例の同定が必須である。なお、PCIの手技成功が93%にとどまった点も改善されるべき余地であることを言及しておく。