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PCI術後の抗血栓療法はDe-escalationの方向へ

滋賀医科大学:中川義久
2020.04.03

アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の内服がステント血栓症の予防に有効性を示して以来、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)はステント留置後の標準治療となった。このDAPT期間を適切に設定するための議論は継続中である。DAPT期間だけでなく、心房細動合併など抗凝固療法を必要とするPCI術後患者においても至適な抗血栓療法レジメンが追求されている。

本邦で行われた臨床試験であるSTOPDAPT-2試験は、アスピリンとクロピドグレルによる12か月間のDAPTを施行する群と、1か月間のDAPT施行後にクロピドグレル単剤に変更する群を比較したものである。本試験では、1か月DAPTは血栓性イベントを増やすことなく出血イベントを減少させたことが示された(Watanabe, et al. JAMA 2019; 321:2414-2427)。また、韓国で行われたSMART-CHOICE試験も、3か月間という短期間のDAPTの意義を示す結果を報告している(Joo-Yong Hahn, et al. JAMA 2019; 321:2428-2437)。欧米で行われたTWILIGHT試験でも、PCIを受けた出血・虚血イベントリスクの高い患者における術後3か月間チカグレロル+アスピリンの併用投与後、チかグレロル単剤投与への変更は、虚血イベントのリスクを上昇させることなく出血リスクが軽減することを示した(Mehran, R., et al. N Engl J Med, 2019.381:2032-2042.)。さらにAFIRE試験では、冠血行再建後に1年以上が経過した心房細動を合併する安定冠動脈疾患患者の治療におけるリバーロキサバン単剤による抗血栓療法は、心血管イベントおよび全死亡に関してリバーロキサバン+抗血小板薬の2剤併用療法に対し非劣性であり、大出血のリスクは有意に低いことを示した(Yasuda S, et al. N Engl J Med. 2019;381;1103-1113)。

病態に応じて複数の薬剤を組み合わすことで濃厚な治療になりがちな中で、”薬剤を減らす”という選択肢の意義を証明したこれらの一連の研究は意義深い。むしろ薬剤を減らす治療のほうが、心血管イベントの発生を増加させることなく、出血性イベントを有意に減らすことを示している。出血性イベントの増加は、安全性懸念を示す重大なアラートである。一方で、出血性イベント増加を容認して抗血栓療法を強化しても、トレードオフとして血栓性イベントの減少は同定されていない。現状において、PCI術後の強力な抗血栓療法は、不確実な「血栓性イベント減少」を追い求め、確実な「出血性イベント増加」を容認しているともいえる。現在の潮流は、DAPT期間の短期化および治療強度の減弱化という、いわゆる抗血栓療法のde-escalationの方向にあることを認識して、実臨床のプラクティスを適切に変化させていくことが重要であろう。

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