ビッグデータの使い方に関して世界的に注目が集まっているが、最近薬剤疫学(Pharmaco-Epdemiology:よくファーマコ・エピィと省略される)という分野でのデータ使用がクローズアップされている。我々の研究グループでも最近そうした分野での解析を行ったので、その一例として紹介したい。
EMPA-REG試験が変えた糖尿病治療の常識
糖尿病の治療は永らく血糖値やHbA1cを下げることがゴールとされ、その遺産効果(Legacy Effect)が長期的な心筋梗塞・脳梗塞等の心血管合併症を予防し、ひいては健康寿命の延伸をもたらすと考えられてきた。しかし、2016年に公表されたSGLT2阻害薬の大規模RCT(ジャディアンスのEMPA-REG試験)の結果は、その信仰を覆す結果を呈した。導入から非常に早い時期に(2-3年)循環器系合併症、特に心不全系のイベントを抑えるということが示されたのだ。
これは歓迎すべき内容だったが、「常識」に反することであり、「果たして本当に本当なのか?」というところが議論を呼んだ。劇的すぎるRCTの結果が地域や患者層によっては再現できなかった、ということは循環器領域でもしばしば経験する。
リアルワールドデータでのRCT検証
そこで我々はこの議論を受け、SGLT2開始群と、同時期に認可されたDPP4阻害薬開始群との比較を、アジア諸国を中心とした13か国の38万例規模の患者データで比較検証した(Lancet Diabetes Endocrinol. 2020 Jul;8(7):606-615.)。その検証にあたっては、各国データの整合性を取り、アウトカムの定義を揃え、さらにそこにState-of-Artの統計処理を施すことが必要だったが、結果として広範囲な患者層でRCTの結果が再現可能ということを示すことができた。
本研究については、世界的なRQ(リサーチ クエスチョン)に対する「国際共同」での取り組みが評価されたが、今後こうしたPharmaco-Epiの分野での検証型データ解析は増えていくのではないかと考えられる。