「CABGに対してPCIは予後を改善しない」という批判が長年されてきた。そこで“CABGと同じくらい難しい冠動脈病変にもPCIで成功させる”という技術の向上を目標に様々な試みが行われ、CABGにかなり近づくところまできた。技術の高いPCI術者はCABGと同等のレベルに到達し、PCIのスーパードクターとなった。
ところがISCHEMIA試験の報告は、この価値観のコペルニクス的転換をもたらした。すなわち、PCIのみならず、CABGも内科治療と比べて長期の死亡率を低下させないという衝撃的な結果が示されたのである。CABGに追いついたところで内科治療と同等というこの結果は、今までCABGに追い付け、追い越せと頑張ってきたPCI術者にとっての目標を奪い去ってしまったのである。
しかしISCHEMIA試験は、安定狭心症に対する話である。ACS、特にSTEMIに対するPCIは死亡率を圧倒的な効果で減少させ、この救命効果はすべての医療行為の中でもずば抜けている。PCIは命を救う素晴らしい治療なのである。PCIの将来が危ういという意見は、ACSに対する治療を考えれば全く的外れである。ただし、STEMIに対するPrimary PCIにおいては、CCSに対するものと様々な点で異なる。第一に時間の制約である。ACSでは24時間で3割死亡する集団である。患者が病院に到着してから90分以内で再開通させなければならない。CCSのようにゆったりはしていられない。第二にPCI成功の定義である。ACSの場合、TIMI3フローが成功であり狭窄度は問わない。CCSの場合、25%以下の狭窄度で合併症がないことである。同じ仕上がりでもACSとCCSでは成功か不成功か異なるので、どこまで拡張するかは同じPCIであっても考え方を変えなければならない。第三に橈骨動脈アプローチの重要性である。橈骨動脈は死亡率に大きな影響を及ぼす。橈骨動脈で死亡率が低下するため、橈骨動脈で行わなければならない。PCIは生命を救う治療であり、これをさらに良く行うには、橈骨アプローチで速く、つまりSpeedy PCIを達成できるのがPCIのスーパードクターなのである。
同じPCIという治療法なのであるが、ACSに対するPCIは違う種目と考えたほうがよいのかもしれない。たとえば、同じ陸上競技でありながら100m走とマラソンでは違う競技であるように。したがって、金メダル級のテクニックも別物である。ACSに対するPCIのテクニックは今後注目されるべき領域であり、将来的に新たなスーパースターが生まれると思われる。